Shadow Protocol
この記事では、 GenesysGo の新たな取り組みである Shadow Protocol について解説します。主に 2021年12月中旬に開催した
の内容をまとめつつ、初めて読む方にも分かりやすいようにこれまでの経緯なども補足説明しています。
なお、どちらのミーティングも YouTube で録画(英語)が公開されていますので、興味のある方はそちらも合わせてご覧下さい。
無料 RPC サーバ
Shadow Protocol の話をする前に、まず RPC サーバの歴史的な経緯に触れておく必要があります。
RPC サーバは、Solana からのデータ取得やトランザクション実行の窓口となるノードで、プログラム的にはバリデータと同じものを実行します。この RPC サーバを有料で提供するのが RPC プロバイダです。
以前は、Solana や Project Serum が提供する無料の RPC サーバを皆が利用していましたが、2021 年 3 月頃に実施された Raydium の AcceleRaytor Public Raise や IDO では、トラフィックが集中したときに RPC サーバのキャパが不足し、Raydium のサイトが機能不全に陥りました。Solana の利用者が増えるにつれ、無料の公開 RPC サーバだけではリクエストを処理しきれなくなってきたのです。
これを機に、Solana の各エコシステムプロジェクトは、自らの Dapp からのデータ取得やトランザクション実行において、自分たちが有償で契約した RPC プロバイダの RPC サーバを利用するようになります。
RPC プロバイダは、エコシステムに対してはトラフィック/リクエスト量に応じて月額数千ドルで、リテールユーザ(主に BOT などを運用しているヘビーユーザ)に対しては月額 500+ ドルで RPC サーバを提供するのが一般的ですが、多くの場合、毎秒のリクエスト数や転送量に関して、レートリミットという上限が設定されています。
そんな中、GenesysGo はレートリミットのない RPC サービス提供を謳い、Solana エコシステムの中でも著名なプロジェクトたちに RPC サーバを提供して着実にシェアを伸ばしてきました。
Solana の NFT は 2021 年夏頃に非常に大きな盛り上がりを見せ、Degen Ape Academy や Solana Monkey Business のレアな NFT が途方もない高値で取引されていたのは記憶に残っている人も多いでしょう。
GenesysGo は、DeFi プロジェクトのみならず、膨大なリクエストが集中する NFT プロジェクトのセールにおいても非常に安定した RPC サービスを提供し、各プロジェクトからの厚い信頼を築き上げてきました。こうした実績が GenesysGo の強力な人脈とコミュニティの団結力にもつながっています。
Shadowy Super Coder NFT
そして、GenesysGo は 2021 年 11 月 4 日に Shadowy Super Coder NFT (SSC NFT) と呼ばれるジェネラティブな NFT を一つ 2.5 SOL で 10,000 個販売しました。
SSC NFT のセールはいくつかの点で特徴的なセールだったと言えます:
- NFT ホルダーには GenesysGo のトークンが 10,000 支給されることが約束されており、その実態は JPEG NFT のセールというよりも、トークン販売による資金調達でした。
- GenesysGo は VC からの個別のディールを断っており、VC であってもリテールと同じ条件で NFT セールに参加することで GenesysGo に投資しなけばいけません。つまり、このセールは、通常リテールには機会すら与えられないシードトークンに投資できる希有なチャンスでした。
- ミント開始から 24 時間以内に 10,000 個が完売したら、2021 年末まで Solana エコシステムに対して無料の RPC サービスを提供することが約束されていました。
※ SSC NFT には他にも DAO などのユーティリティがあります。あまりご存じない方は、 SSC NFT の FAQ の日本語訳も一読されるとよいでしょう。内容はやや古く、その後変更された事項もありますが、GenesysGo の資金調達の哲学や SSC NFT の成り立ちを知るには有用かと思います。
実際、SSC NFT はミント開始から半日経過せずに 10,000 個が完売し、約束通り GenesysGo は無料 RPC サーバの提供を始めます。
なお、その後の SSC NFT のフロア価格推移はご存じの通りで、2021 年 12 月には 30–40 SOL に到達し、第三回目のタウンホールミーティングと技術デモの後は 45 SOL 付近で推移しています。
SSC NFT の価格は、NFT のレア度とはほぼ関係が無く、主に GenesysGo トークンの市場予想価格と連動します。GenesysGoトークンが将来的に高い価値を持つと思う人が増えれば、SSC NFT をより高い価格で買う人が増えて、フロア価格も上昇していきます。
無料 RPC サーバの今後
さて、こうした経緯で 2021 年末まで提供される予定で始まった無料 RPC サービスですが、第三回目のタウンホールミーティングで GenesysGo は、それ以降も永久的に無料 RPC サーバを継続提供すると発表しました。
無料 RPC サーバを維持する資金源には、GenesysGo が運営する Shadowy Super Coder DAO バリデータのバリデータ報酬を充当します。概ね 1M SOL 以上のデリゲートが集まれば、5% のバリデータ報酬でそのコストが賄えるとのことです。
これは Solana および Solana ユーザにとっては大変喜ばしいニュースであると同時に、他の RPC プロバイダたちがビジネスモデルを根本的に見直すことを余儀なくされるほどインパクトのある出来事と言えます。
これまで、GenesysGo は RPC プロバイダというカテゴリの中で、競合他社と比較されてきましたが、私見では GenesysGo は既に RPC プロバイダの枠組みには収まらないスケールのビジネスモデルに転じており、もはや RPC プロバイダという視点での比較には意味がないと考えています。
以上を踏まえて、Shadow Protocol の紹介に移りたいと思います。
Shadow Protocol
Shadow Protocol は、GenesysGo が開発を進めている包括的なネットワークレイヤーの総称で、Solana 上ではなく Solana 内に構築されます(その意味は後で説明します)。これは、GenesysGo の言葉を借りれば、Solana の分散化されていなかった領域を分散化するための最後のピースです。
Shadow Protocol のネイティブトークンは $SHDW と呼ばれます。これが SSC NFT ホルダーに約束された GenesysGo トークンであり、ホルダーには NFT 一つあたり 10,000 $SHDW が分配されることになります。
Shadow Protocol は、当初から GenesysGo が計画していたロードマップの延長線上にあり、以下の三つの要素から構成されます:
- Shadow Network — 分散化 RPC ネットワーク
- Shadow Operator — Shadow Protocol の参加ノード(オペレータ)
- Shadow Drive — 分散化ストレージ
それぞれ順番に見ていきましょう。
Shadow Network
Shadow Network は、GenesysGo が以前から計画していた分散化 RPC ネットワークの名称を改めたもので、Shadow Operator と呼ばれるノードが提供する計算リソースを利用して Solana の RPC インフラを分散化された形で実現します。
Shadow Operator
Shadow Operator は、たとえて言うなら Solana におけるバリデータのような存在で、Shadow Protocol のサービスを提供するノードまたはそのノードを運営する人を指します。
Shadow Operator は、Shadow Network や Shadow Drive を実現するための計算資源とストレージを提供し、その対価/報酬として $SHDW トークンを受け取ります。Shadow Operator になるのに特別な資格や許可は不要ですが、$SHDW トークンをステークすることが要求されます。
万が一、Shadow Operator が悪意のある結果を返したりした場合は、スラッシングと呼ばれる罰を受け、ノードがステークしている $SHDW トークンの一部または全部が没収されます。
さきほど、Shadow Operator になるために特別な資格は必要ないと書きましたが、RPC サービスを提供するにはそれなりのスペックのマシンとバンド幅を持つネットワークが要求されるため、Shadow Operator は二段階に分けて実装されていく予定です。
第一段階では Solana Server Program と呼ばれる Solana Foundation が用意したプログラムを通じて契約したデータセンター+マシンを前提として、ノードをセットアップする手順や設定方法が提供されます。
第一段階の安定稼働が十分に確認できたら、第二段階として、ブラウザ拡張をインストールすることで、任意のマシンを Shadow Operator として機能させることが可能になるようです。
GenesysGo が RPC を無料で提供してしまうと、RPC プロバイダの競合他社は商売あがったりになりそうです(実際そうだと思います)が、サーバ運用に秀でている人/企業ならば Shadow Operator として Shadow Protocol に参加して報酬を得るという選択肢もあります。
Shadow Drive
Solana がスマートコントラクトを実行する仮想的なコンピュータであるとすれば、トランザクションの実行を担うバリデータは CPU に相当し、RPC サーバは短期的なデータを保持する RAM の役割を果たします。
しかし、バリデータや RPC サーバのストレージに入りきらない、Solana の過去の膨大なデータは誰が管理しているのでしょうか?
現時点では、Solana が利用しているストレージは大きく三種類に分けることができます。
- 直近一週間ほどのデータを格納しているバリデータや RPC サーバのストレージ(上記の RAM のような位置付け)
- 過去の膨大なデータを保持する Google Big Table Storage
- NFT のメタデータや画像データなどを保持するサードパーティーストレージ(IPFS, Arweave など)
分散化の観点からは、過去の膨大なデータを記録するストレージとして Google Big Table という単一サービスに依存しているのが問題であることは明らかでしょう。
また、IPFS や Arweave に巨大なデータを記録するのはコストの面で現実的ではありませんし、Solana のパフォーマンスがきわめて高いために、ストレージに特化した既存ブロックチェーンでは Solana が生成する大量のデータをうまく処理しきれません。
ここで Shadow Drive の登場です。
Shadow Drive も $SHDW をネイティブトークンとするプロトコルで、検閲耐性のあるオンチェーンのストレージサービスを実現します。
Shadow Drive は Solana バリデータネットワークに直接統合されることでデータに関する攻撃面を減らし、データの不可変性や冗長性を確保しつつ、バリデータコンセンサスの整合性を維持するよう設計されています。
さきほど Shadow Protocol が Solana 上ではなく Solana 内に構築されると紹介しましたが、それが意味するところは
- Solana バリデータネットワークに直接統合される
- サービスの対価は(ユーザが払うのではなく) Solana が払う
ということです。
実際のエコノミクスがどうなるのか詳細は明らかにされていませんが、Solana が $SHDW を市場で買って支払うとか、もしくは $SOL で支払われたものを $SHDW にスワップするなどして、$SHDW の需要につなげるものと思われます。Shadow Protocol が利用されている限り、$SHDW トークンに継続的な需要が生まれることは特筆すべきでしょう。
ちなみに、Shadow Drive も二つのフェーズに分けて実装されます。
第一フェーズではプログラムアカウントステートデータの全履歴に対応し、次の第二フェーズで Solana に特化した汎用のストレージソリューションを提供します。
長期的なビジョンとしては、Solana に統合されたストレージサービスとして、Arweave や Filecoin などのライバル的な位置づけを狙っていくものと考えられます。
※さきほど「サービスの対価は Solana が払う」と書きましたが、第二フェーズの汎用ストレージサービスが始まったら、汎用ストレージの利用料としてユーザからも $SHDW を徴収するようになるはずです。
IDO について
最後に、2022 年 1 月 3 日に予定されている $SHDW の IDO について少しだけ触れておきたいと思います。
この IDO は、Mango 方式にいくつかの変更を加えたオークションスタイルで実施されます:
- プールには 30M $SHDW が割り当てられます
- 最低価格は 1 SHDW = 0.5 USDC(これより安くはなりません)
- $SHDW を購入したいユーザは USDC を好きなだけデポジットします
- 最低価格が 0.5 USDC なので、総デポジットが 15M USDC に満たない場合は、すべての $SHDW が割り当てられず、一部が余ることになりますが、余った分はそのまま SSC DAO の基金に回されます
- オークションの最後ギリギリに大口が資金を抜いて価格を操作することができない(やりづらい)ような工夫を加えるようです
また、SSC NFT ホルダーには一年にわたって 10,000 $SHDW が、つまり一日当たり 27.39726 $SHDW がアンロックされて支給されていきます。
この辺りの経済的な話題については Jeff さんの Medium 記事が詳しいので、興味のある方はそちらをご覧下さい: